起業を考えている方はまず個人事業主として活動するのか、法人として会社を設立するのかを決める必要があります。起業するには綿密な事業計画が必要ですが、それと同時に会社設立費用や起業にかかる費用(コスト)をしっかりと計算しておくことが大事です。

この記事では法人として起業するのに費用やトータルでかかる会社設立費用をこまかく分析していき、起業しようと考えている方にわかりやすく解説していきます。

会社設立費用とは?経費との違い

会社設立費用の図

ここでまずは会社設立費用について確認しておきましょう。

会社設立費用とは、事業が創業するまでにかかる起業するための費用のことで、収益が出るまでに出ていくコストのことを言います。一方、経費とは創業後に事業を運営していくためにかかるコスト・出費です。そのため、会社設立費用と経費は別物なので混同しないようにしましょう。

起業アイデアが浮かんだ後には、色々な準備が必要となるので、費用を含め準備を進めることが重要です。

会社設立費用の例としては、定款作成にかかる収入印紙代・謄本代、事務所の賃料や備品の購入費、行政への登記手続きにかかる費用、税理士や行政書士、司法書士を依頼する場合も会社設立費用に含まれ、業種によっては事前に行うマーケットリサーチ費なども起業の費用に認められます。これらの費用は事業で収益が出る前に発生する出費のため、通常の経費ではなく会社設立費用ということになります。

なお、法人として起業する場合は登記手続きなどで費用が発生しますが、個人事業主として起業する場合には税務署において無料で届け出をするだけで完了しますので、この記事では法人の会社設立費用を主に解説します。

会社設立費用の経理処理 – 勘定科目とは

会社設立費用の経理処理の図

会社設立費用は通常の経費とは異なることは理解できると思いますが、経理処理をするうえで勘定科目はつぎのように分類されます。

まず、起業準備から会社を実際に設立するまでにかかる費用は「創立費」として経理処理されます。創立費には上記で紹介した収入印紙代や謄本代、登記手続きの費用などが含まれますが、これらの他にも仮にレストランでミーティングを行った際の食事代なども創立費に含めることができますので領収書はキープしておくと良いでしょう。

また、実際に会社を設立してから営業を開始して収益を上げるまでの期間は「開業費」として経理処理されます。例えば税理士事務所を開くために法人を設立してから事務所をリフォームしてオープンできる状態までにかかる費用のことになります。開業費として計上できるコストは営業開始までの研修費、接待交際費、広告宣伝・マーケティング費、マーケティングリサーチ費、その他開業に必要な支出などがあります。

会社設立費用を創立費と開業費に勘定科目に仕訳する利点として節税効果があります。創立費と開業費の勘定科目は繰延資産(くりのべしさん)と呼ばれる資産として計上され、これは税務上任意の期間内に経費として計上することが可能です。

スタートアップ企業は起業直後は利益が出るまで資本金が非常に貴重になるため、事業開始年度に会社設立費用を経費として計上しなくてもよいことが認められています。起業にかかった費用を繰延資産として維持し、多く利益が出た年度にこの繰延資産である会社設立費用を遡って経費として計上することができるため、節税効果が高くできます。

そのため会社設立費用の勘定科目はスタートアップを起業する際には十分に理解しておくと効果的な資金運営ができます。詳細は会計士などの専門家に相談するようにしてください。

起業費用・会社設立費用の種類と一覧

起業する費用とざっくり言っても様々ありますが、大きく分けて2種類に分けることができます。それは一時的な出費なのか継続的な出費であるのかという違いです。以下では主な一時的な起業費用と継続的な費用を紹介します。

一時的な出費の例:

  • 登記手続き費用(税理士・行政書士・司法書士への依頼費を含む)
  • 事務所や店舗の賃貸契約の手付金(実店舗や事務所が必要な場合)
  • 店舗の改修費
  • 企業のロゴやウェブサイトのデザイン
  • 名刺や事業に関するパンフレット作成費
  • 免許や資格の取得費(業種による)

など

継続的な出費の例:

  • 事務所や店舗の賃料
  • 従業員への支払い(雇用する場合)
  • 社会保険料
  • 税金
  • 税理士・行政書士・司法書士などの顧問料(継続して依頼する場合)
  • 設備投資などへの返済
  • マーケティング費

など

事業で収益が発生すれば継続的な起業費用は経費と呼ぶことになりますが、それまでは大きな額の会社設立費用がかかることを念頭においた方が良いでしょう。

起業の費用の見積もり方

起業の費用の見積もり

事業計画書や売上予測などをする場合、自分の事業の優位性を研究したり競合他社の価格設定などを綿密にマーケットリサーチしたりしますが、これと同じくらい重要なのが会社設立費用の見積もりです。リサーチが完了したら起業費用を見積もることができ、この見積もりに従って事業計画をつくることになるからです。費用次第では金融機関からいくらの融資が必要になるのかが明確になり、これは融資を受けるために大事な情報となります。起業の資金調達方法はリンク先の記事で解説していますのであわせてご覧ください。

ここでは以下の3ステップで会社設立費用を見ていきます。

ステップ1 – 起業の費用を洗い出す

前述の通り、まずは事業のサービスを開始する前に必要なコストを見積もります。例えば集客のためのマーケティング活動やウェブサイトづくり、業種によってはまず製品開発や製品サンプルを被験者に試すなどの活動が必要になります。これらは創業前に発生するコストです。また、一時的なコストなのか継続的なコストなのかも早い段階で仕分けをしておくことが大事です。

まずは、起業のおすすめステップとして、アイデアなどまとめたら、自分の事業で必要なコストを洗い出し、その性質を事前に理解しておくことが次のステップになります。

ステップ2 – 資産を探す

会社設立費用を見積もるのになぜ資産が必要なのかと思うかもしれませんが、起業で発生する費用はすべてが消耗品というわけではありません。仕事に必要な備品や設備はバランスシート上“固定資産”という位置付けになります。そのため、創業のために必要な出費であっても長期的には資産として計上することができると会社の資産価値が上昇しますので事前に把握しておくことがとても大事になります。例えばオフィスや実店舗を賃貸している場合、その会社設立費用はのちに“経費”となりますが、もしも自分の法人が購入した物件であればローンの返済は“経費”ですが不動産価値は“固定資産”としてバランスシートに計上されます。豊富な資産があれば追加融資などが必要な場合に有利になるため、起業時点で購入する備品などは資産価値があるかどうかを仕分けしておくことが後々に大きな利益になります。

創業時の会社設立費用が資産に計上できる例としては以下のものがあります。

  • 創業前の商品在庫
  • コンピュータやハイテク備品
  • オフィス用品
  • オフィスデスクやチェアなどの用品
  • 車やトラックなど業務に必要な運搬機材

ステップ3 – 必要な資本金を見積もる

起業するのに必要な費用と計上できる資産の見積もりが完了すれば自分の事業のバランスシートを作ることができます。まだ創業前で備品の購入などをしていない段階でも仮のバランスシートを作成すると想定される資産価値が明確になり、融資などを受ける際にも有利になります。

この次のステップとして必要なのが起業するために必要な資本金を見積もる作業になります。スタートアップ時には融資や出資を金融機関や投資家にお願いすることが多いですが、地方自治体によってはオフィスや店舗の賃料を補助したり、設備投資を助成してくれる制度などがあります。起業の助成金、支援、創業補助金に関してはリンク先の記事でこまかく解説していますので利用されたい方は内容をご確認ください。

会社設立にかかる費用

会社設立にかかる費用

上記の通り、個人事業主が起業する場合は届出を税務署にするだけで済み、なおかつ無料で行えますが法人の場合は様々な手続きが発生するうえに起業費用がかかります。

会社の登記にいくらかかるのかが起業家の方にとっては気になる点ですが、株式会社を設立する場合は手続きに実費で25万円程度は見積もる方がよいでしょう。内訳としては収入印紙代が4万円程度、定款の認証手数料で5万円ほど、謄本の発行手数料が2000円ほど、そして登録免許税が一般的に15万円ほどかかってきます。

一方、合同会社として設立する場合は会社設立費用が10万円ほどで設立できるとされています。

起業の費用が想定よりも膨れ上がってしまうと、早くも起業失敗という残念な結果になってしまうので、

株式会社と合同会社

2006年から始まった新しい会社法によって有限会社がなくなり、合同会社が新たな法人の形態として生まれました。合同会社とは、簡単にいうと会社の所有者と経営者が同一の法人です。社員が合同で出資し合うことで事業を立ち上げるため合同会社となります。

一方、株式会社は必ずしも所有者と経営陣が同じ人物だとは限らず、誰でも株式を保有することができ、株式を保有しない人が経営者となることができます。一方、合同会社は所有者が経営を担当するため、執行役員や取締役などの役職者は設置されません。オーナーと経営者を兼務するため、代表者を代表社員と呼ぶ特徴もあります。

合同会社のメリットは会社設立費用や経費が低い点で、法人としての節税効果もあるのが大きな利点です。また、所有者が経営者として運営するため経営の自由度が高い点も合同会社の魅力と言えます。

ただ、合同会社のデメリットは起業資金の調達方法が限定的な点です。株式会社は株を発行することで事業に必要な資金を集めることが可能ですが、合同会社には株はないのでこの手段は使えません。代わりに新しい社員を追加してこの人から出資をお願いすることになります。また、株式会社なら社会的信用度があるので大きな額の融資が可能になりますが、合同会社では大規模な資金調達をするのが難しいのがデメリットとして挙げられます。

合同会社のメリット:

  • 所有者が経営者となり高い経営度が実現できる
  • 会社設立費用が株式会社よりも安い
  • 法人としての節税効果が得られる

デメリット:

  • 資金の調達方法が限定的
  • 社会的信用度や知名度は株式会社よりも低い
  • 大規模な資金の融資が難しい

合同会社のコスト

合同会社の方が株式会社よりも安い会社設立費用で起業することができます。

株式会社と合同会社で金額が異なる要因として、公告義務や重任登記費の有無があります。上記の通り、合同会社には役員がいないため重任登記費がかかりませんが、株式会社は役職を設ける必要があるためコストが大きくなります。その他にも株式会社の方が費用が大きくなる要因があるので自分の事業にあった会社形態を選択するようにしましょう。

また、司法書士の場合、合同会社の会社設立費用は6万から9万円程度が相場となっています。株式会社を設立する際の司法書士費用は7万円から10万円程度が相場とされているため、株式会社とはそこまで大きな差はありません。これは定款の認証手続きや必要な事務作業が若干の差でしかないため、そこまで大きなコスト差が発生しないことにあります。

株式会社の会社設立費用と経費

合同会社はコストの面で起業の費用が安いことが分かりますが、株式会社の会社設立費用は維持費などを含めると様々なコストがかかります。主なものとしては税金や税理士など外部の専門家への顧問料、社会保険料、労働保険料などが発生します。

株式会社の会社設立費用:税金

個人事業主の場合、事業が赤字だったり損益分岐点だと無税になることがありますが、法人の場合は経営が赤字でも一定額の税金を納める必要があります。法人は欠損金(赤字)の繰越が可能ですが、全く税金を支払わない年はありません。そのため会社にとっては税金は固定費となります。

従業員が自分だけだったり数人だけのスタートアップ企業でも法人住民税を約7万円を納税する決まりになっており、雇用者が50人を越えたり1000万円以上の資本金があったりすると税額も増えるので注意が必要です。

株式会社の会社設立費用:税理士などへの顧問料

法人の場合、事業年度が終わると決算書を作成して税務署などに提出したり、融資や創業助成金を受けている場合は事業報告書を提出する必要があります。これらの書類を作成するには税理士や会計士、場合によっては法律の専門家や行政書士に依頼して書類の作成や手続きを依頼する場面が増えます。もちろん起業家である自分がすべてをこなすことも可能ですが専門的知識を要するため、専門家に任せるのが一般的です。

税理士や会計士は外部に委託しますが通常は同じ人に継続して見てもらうことになるので月額で報酬が発生することになります。相場は月額3万から5万円ほどですが、会社の規模や売上などによって報酬額は変わりますので注意が必要です。また月々の顧問料の他に年度末の決算書作成には平均15〜20万円単位の別途費用が発生することが多いです。

株式会社の会社設立費用:司法書士の費用

司法書士は法人や商業登記をする際に依頼することになります。前述の通り、株式会社創立で司法書士を雇った場合の会社設立費用は合同会社のときとそこまで大きな差はなく、株式会社の場合は7万円から10万円程度が相場です。

司法書士に依頼するメリットとして、多くの司法書士事務所は電子定款に対応しているため、法定費用の印紙代を節約できることが大きな利点として挙げられます。電子定款とは文字通りパソコンなどで定款をPDFファイルに電子化された定款のことを指しますが、個人で定款を作成すると文書としての扱いとなり、印紙代が4万円も掛かります。ただ司法書士に依頼して電子定款とすれば印紙税法上の文書にならないため、4万円の印紙代の支払いが不要になります。なので、司法書士に依頼すると4万円分が節約できるため会社設立の費用対効果が良いとも言うことができます。

株式会社の会社設立費用:その他の継続的な経費

以上の他にも事務所を設けるのであれば賃貸料や事務所の光熱費、在庫が発生するタイプの事業であれば在庫管理費とその場所にかかる維持費、従業員を雇う場合は社員への給与や社員の福利厚生費が発生しますので注意が必要です。

起業時には一人で立ち上げ、創業したら従業員を雇うという場合もあるかもしれませんが、事業の種類によっては収益が出る前に先行投資的に人や在庫に費用を割かなければないでしょう。株式会社として起業する場合にはここで紹介したような会社設立費用が発生することをしっかりと理解した上で事業計画書や財務計画に反映させるようにしてください。

会社設立費用は1円でも可能?

2006年から始まった新会社法によって有限会社が廃止されて合同会社が設けられるようになりましたが、ほかの新しい点は1株からでも株式会社を設立できるようになった点です。

従来は起業する際に資本金1円で会社設立をしたら5年以内に最低資本金を引き上げなければならないというルールが存在しましたが新会社法ではこの条件が撤廃されたため、1円を会社設立費用に設定したらそのまま維持することが可能になりました。

また、1株あたりの金額も以前は最低5万円以上と決まっていましたが、現在は1株あたりの金額設定は自由になっています。そのため、1株1円の会社設立費用で起業できるといえばできることになります。

ただし、本当に1円の会社設立費用で起業をすると企業としての信用度も低くなりますし、そうなると金融機関からの融資が受けにくいというデメリットもあるため注意が必要です。

自己資本金なしの会社設立費用 – 融資は受けられるか?

また、自己資本金なしの会社設立費用はどうなのか、という質問がよくありますが、結論としては可能です。

日本政策金融公庫のような政府系金融機関にある融資制度や中小企業庁が管轄している新創業融資制度では基本的に起業する人には会社設立費用の10分の1にあたる自己資本金が必要ですが、条件次第では自己資本金なしで融資を受けられます。この条件は、自分が起業しようとしている事業が現在働いている会社と同じ事業であることや産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める場合とされています。例えば現在税理士事務所で働いていて、実務経験を積んでから独立しようと考えている場合、会社の設立費用は自己資本金なしでも融資を受けられる可能性があります。また、認定特定創業支援等事業に関しては地方自治体によって異なるので事前に問い合わせるようにすると良いでしょう。

会社設立費用まとめ

起業するのに費用やトータルでかかる会社設立費用を分析し、勘定科目や必要な資本金、株式会社と合同会社を起業するのにかかる費用を解説してきました。

起業する上で覚えておきたいのが、会社設立費用は経理処理では経費として計上されず、「創立費」と「開業費」の勘定科目になることです。繰延資産とすることで起業年度に経費として計上せずに後年に繰り越すことができるため、大きな節税効果があります。

また、起業の費用を見積もる上では単に出費のコストだけでなく、資産として計上することも念頭に入れるとバランスシートが充実し、将来的に融資や助成金を受給する上で有利となります。

株式会社か合同会社を設立する上では合同会社の方が会社設立費用は低く抑えられますが、諸々のメリットとデメリットがあるのでこの記事で分析した要点をしっかり読んで自分にあった企業形態を選択するようにしましょう。また、登記手続きにかかるコストなどの他にも税金や税理士、司法書士など外部の専門家に依頼する顧問料、ひいては株式会社の場合社会保険料も会社設立費用に含まれますので、起業の全体費用を考えるうえでは綿密な財務計画を持ち合わせるようにしましょう。