シンガポール市民の仮想通貨に関する未来

シンガポール金融管理局(MAS、中央銀行)のラヴィ・メノン総裁は28日、香港金融管理局と国際決済銀行が主催した「通貨システムの将来に関するパネルディスカッション」に登壇し、「金融サービスの基本的なテストに不合格だった民間の暗号資産(仮想通貨)は、いずれ退場することになる」と発言しました。シンガポールはアジアの金融ハブとして知られており、この発言は業界に波紋を広げています。

シンガポール中銀総裁、民間の仮想通貨に否定的な発言

メノン氏はパネルディスカッションで、民間企業が発行する仮想通貨について、安定性がなく貯蓄手段としての適格性を欠くという見解を示しました。同氏は「民間の暗号資産(仮想通貨)は価値を維持することができず、貨幣としてのテストに見事に失敗した。このようなものを貯蓄をしている人はいない。手っ取り早く儲けるために、売買しているだけだ」と語りました。

一方でメノン氏は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)、トークン化された銀行債権、「十分に規制された」ステーブルコインが今後の業界をリードすると予測。メノン氏による一連の発言の背景には、同氏率いるシンガポール金融管理局(MAS)が8月、ステーブルコインに関する最終的な規制枠組みを発表したことが挙げられます。

もともと仮想通貨は、2008年のリーマンショックをはじめとする金融危機において、伝統的な金融機関や法定通貨に対する不信感が高まったことが契機となり生まれました。そしてステーブルコインは法定通貨と連動し、安定した価値を持つことから、仮想通貨市場におけるリスクヘッジの手段として長年利用されてきました。

こうした中、MASが発表したステーブルコインの規制枠組みは、同国が発行する単一通貨ステーブルコイン(SCS)もしくはシンガポールドル(SGD)に関し、米ドル、ユーロ、英ポンドなどを含むG10の通貨にペッグ(裏付け)することを求め、価格の安定を目指しています。これは、ビットコイン(BTC)のような民間発行の仮想通貨が示す高いボラティリティ(価格変動)とは対照的です。

インド中銀副総裁、CBDCの普及加速を強調

一方で、インド準備銀行(RBI、中央銀行)のM.ラジェシュワル・ラオ副総裁はインドのCBDCについて「データのプライバシーが懸念事項だ。サイバーセキュリティも重要な問題で、CBDCが法定通貨と同じくらい信頼されるようにしなければならない」とパネルディスカッションで発言。CBDCに大きな可能性を見出していることが垣間見えます。

インド準備銀行は、CBDCをのパイロット試験を行った数少ない中央銀行のひとつで、累計参加者は約275万人にのぼります。ラオ氏は、CBDCが本格的に普及し、銀行間取引など、伝統的金融の領域に進出する可能性があると見ています。